フランスにおいて家庭内暴力(violences conjugales)は、毎年20万人以上が被害を訴える深刻な社会問題です。
家庭内暴力とは、配偶者・元配偶者・同居人などの親密な関係性の中で発生する暴力行為を指し、身体的暴力にとどまらず、精神的(暴言、脅迫、無視など)、性的、経済的(例:生活費を渡さない、働かせない)、行政的(例:滞在許可証や社会保障制度の手続きを通じたコントロール)といった多様なかたちの支配や、威圧的な態度による恐怖の植え付けも含まれます。
フランス政府はこの問題に対し積極的に取り組んでおり、被害者の支援、加害者への法的制裁、専門機関の連携による包括的な対応を進めています。
とはいえ、実際に支援を受けようとする際には、制度の理解やアクセスに課題を感じる人も少なくありません。
特にフランスに住む外国人にとっては、制度や言語の壁が大きなハードルとなります。
そこで、この記事では、DV被害に直面したときにフランスですぐに実行できる具体的な行動を3つご紹介します。あわせて、制度の概要や手続きの注意点、法律的なポイントもわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- DV被害者がすぐに取るべき3つの行動
- 被害届や保護命令申立てまでの具体的な流れ
- よくある相談とその解決策
- フランス国内で利用可能な支援団体と相談先リンク
1.DV被害者が最初にすべき3つのこと
<すべきこと1>命の危険があるなら即通報・避難!

緊急時の対応と通報先
DVにより、生命・身体に危険がある場合は、何よりもまず自分の安全を最優先に考え、直ちに避難することが求められます。
フランスでは、緊急時に利用できる電話番号が複数ありますので、ご紹介します。
*緊急時の電話番号:
- 17(警察):フランスの警察に直接通報するための番号。犯罪や緊急事態に対して最速で対応してもらえます。
- 112(ヨーロッパ共通の緊急通報番号):フランス国内のみならず、欧州全体で利用できる緊急通報番号です。どこからでも通報でき、すぐに支援が受けられます。
- 114(聴覚障害者向けSMS通報番号):聴覚に障害がある場合や音声での通報が難しい場合に使える番号です。SMSを使って警察に通報できます。
🏠 緊急避難先:
避難をする場所がなくても、市役所(mairie)やCCAS(福祉センター)、またはDV被害者支援団体であるFrance Victimesが、一時的に避難場所を提供してくれます。
こうした施設は、被害者が安全に過ごせる場所を紹介してくれるため、緊急時に頼りにできます。
特に、フランスでは「女性のための緊急宿泊所」🏨(foyer d’hébergement d’urgence)が存在し、子どもを連れていても利用が可能です。
<すべきこと2!>公的相談窓口へ連絡する📞

DV被害に遭っている場合、すぐに公的な相談窓口へ連絡することが大切です。
支援団体や相談窓口では、法的サポートや心理的支援、住居の提供などを受けることができます。
🧭 主な相談窓口:
① 3919(Violences Femmes Info):
これは、DV被害者のための24時間対応の無料・匿名相談サービスです。
通話内容は守秘義務があり、どんな質問でも安心して相談できます。
必要であれば、日本語通訳を依頼することも可能です。事前にリクエストを出しておくとスムーズに対応してもらえます。
② France Victimes:
全国的にネットワークを持つDV被害者支援団体です。法的支援を受けることができ、必要に応じて心理的支援や住居支援もコーディネートしてもらえます。
DV被害に関する法律相談から心のケアまで、広範囲に対応しています。
③ CIDFF(女性と家族の情報センター):
DV、離婚、親権に関する権利について無料で相談ができる団体です。
DV被害に関連した法的なアドバイスを受けることができ、家族問題に関する問題も解決に向けてサポートしてくれます。
<すべきこと3!>証拠の保全を行う📂

証拠があることで、後の法的手続きが有利になります。
DVが発生した場合、その証拠を適切に保全することが重要です。
🔍 証拠の種類:
- 医師の診断書(certificat médical):
暴力を受けた際に、医師に診察してもらい、その証拠として診断書をもらいます。
診断書は、傷の発生日や発見日を詳細に記録してもらうように依頼することが大切です。 - メール・SMS・ボイスメッセージ:
加害者とのやり取りの中で、DVを示す内容があれば、保存しておきます。 - 暴力の痕を示す写真:
怪我や物的証拠を撮影した写真も重要です。証拠として法的に認められる場合があります。 - 近隣住民の証言や通報記録:
近隣住民が暴力を目撃したり、警察に通報していた場合、その証言も重要な証拠となります。 - 録音:
暴力の様子を録音することも証拠となりますが、録音が合法かどうかを確認することが重要です。
文責:弁護士 宮田晶子
※本記事は、2025年4月時点の情報に基づいて執筆されています。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の法的助言ではありません。個別のケースについては、弁護士にご相談ください。