フランスにおいて家庭内暴力(violences conjugales)は、毎年20万人以上が被害を訴える深刻な社会問題です。
家庭内暴力とは、配偶者・元配偶者・同居人などの親密な関係性の中で発生する暴力行為を指し、身体的暴力にとどまらず、精神的(暴言、脅迫、無視など)、性的、経済的(例:生活費を渡さない、働かせない)、行政的(例:滞在許可証や社会保障制度の手続きを通じたコントロール)といった多様なかたちの支配や、威圧的な態度による恐怖の植え付けも含まれます。
フランス政府はこの問題に対し積極的に取り組んでおり、被害者の支援、加害者への法的制裁、専門機関の連携による包括的な対応を進めています。
とはいえ、実際に支援を受けようとする際には、制度の理解やアクセスに課題を感じる人も少なくありません。
特にフランスに住む外国人にとっては、制度や言語の壁が大きなハードルとなります。
そこで、この記事では、DV被害に直面したときにフランスですぐに実行できる実際の手続きを3つご紹介します。
警察への被害届(Plainte)の提出

DVが発生した場合、警察に被害届を提出することができます。
これは,加害者に対して法的な措置を取るための第一歩です。
- 方法:
警察署(commissariat de police)や司法警察(gendarmerie)で口頭または書面で被害届を提出します。拒否された場合は、検察庁(Parquet)に直接提出することができます。 - 外国語対応:
通訳を要求する権利がありますので、日本語での対応してもらうことが可能です。
保護命令(Ordonnance de protection)

DVの被害者が加害者からさらに危害を加えられるおそれがある場合、保護命令をJuge aux affaires familiales(家事事件裁判官)に申立てることができます。この命令により、加害者からの接近を制限することができます。
注意点:
この「おそれ」とは、漠然とした不安ではなく、具体的かつ差し迫った危険であると裁判官が判断する必要があります。したがって、保護命令の申立てには、医師の診断書、警察への通報歴、証言などの客観的証拠が求められます。保護命令は誰にでも簡単に出されるわけではなく、裁判所が慎重に審査を行った上で発令されるものであることに留意が必要です。
- 決定までの期間:
平均して1週間程度で決定が下されます。 - 命令の内容:
加害者の立ち退き命令
加害者の接近禁止(50m,100mなどの範囲)
親権・面会の一時停止
加害者の武器押収
よくある相談とその解決策

- 加害者が家を出てくれない
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保護命令に基づく強制立ち退き命令を申請できます。この命令により、加害者を自宅から立ち退かせることが可能です。
- 子どもを連れて出るのは誘拐にならない?
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DVによる避難であれば、法的に問題はありません。事後に裁判所を通じて面会交流などの調整が行われることが一般的です。
- お金がなくて弁護士を雇えない
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aide juridictionnelle(法律扶助)を申請することができます。収入が一定以下の場合、弁護士費用が一部または全額補助されます。
- 滞在許可証は大丈夫でしょうか?
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DVを理由とした独立した滞在許可証(Titre de séjour vie privée et familiale)を申請することができます。婚姻中だけでなくPACS中でも申請可能です。そのため、滞在資格が配偶者依存の場合であっても、強制送還の対象にはなりません。
フランス国内で利用可能な支援団体,相談先リンク
- France Victimes https://www.france-victimes.fr
- CIDFF(Centre d’information sur les droits des femmes et des familles女性と家族の情報センター)https://fncidff.info
- 在フランス日本国大使館サイト(DV(ドメスティック・バイオレンス)・児童虐待について)https://www.fr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/dv-jidogyakutai.html
- aide juridictionnelle(法律扶助)https://www.aidejuridictionnelle.justice.fr/aide/demande-en-ligne
まとめ:「あなたを守る法律と支援先がフランスにはある」

フランスには,DV被害者を守るための多層的な制度が整備されており、法的措置を取ることで自分の身を守ることができます。日本とは異なるシステムもあり不安を感じるかもしれませんが、支援の手はしっかりと存在しています。
「一人で抱え込まないこと」「小さな一歩を踏み出すこと」が、DVから脱却するための第一歩です。
- 必ず第三者を介してやり取りを行うこと(警察,支援団体,弁護士など)。
- SNSにDVに関する投稿をしないこと。裁判で不利に働くことがあります。
- 「子どものために我慢する」ことが,子どもにとって逆効果になる場合があると認識しましょう!
文責:弁護士 宮田晶子
※本記事は、2025年4月時点の情報に基づいて執筆されています。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の法的助言ではありません。個別のケースについては、弁護士にご相談ください。

